不動産鑑定士という資格があります。
資格の本には
「弁護士・公認会計士と並ぶ3大難関資格」と言われることもあります。
個人的には弁護士・公認会計士試験の方が難しいと思いますが
弁理士や司法書士も含めて5大難関資格ではあろう、と思います。
私は、不動産鑑定士ではありません。
不動産鑑定士の一次試験である短答式というのは合格しましたが
次の論文試験には落ちました。
ただ、不動産鑑定事務所での勤務を経験しており
また、その後の仕事でも複数の不動産鑑定士と仕事もしておりますので
不動産鑑定士についての理解はあるつもりです。
個人的な考えを率直に言うと
もし不動産のプロを目指して試験勉強をするつもりなのであれば
1 不動産鑑定士の資格を取る必要はない
2 すぐに不動産会社で働きながら、不動産関連の資格を取るべき
と断言をしておきます。
1 不動産鑑定士の資格を取る必要はない
について、「お前は落ちているくせに」と言わないで我慢してください。
理由は明白で、試験が難しすぎるわりに、稼げる可能性が高くないからです。
つまり、コストパフォーマンスが悪い。
試験の難易度については、はっきり言って難しいです。
その難しさの最大の原因は不動産鑑定士試験に特有の
「不動産鑑定理論(鑑定理論)」のためです。
鑑定理論自体は、読めばおおよそ理解はできます。
なので、試験を通過する必要はありませんが、不動産鑑定理論そのものは知っておくべきかと思います。
問題は、鑑定理論が発展途上の理論で、論理的に体系化されているとは言い難く
論文試験の回答が、鑑定理論の丸暗記をベースにしたようなものが評価される傾向があり
鑑定理論の暗唱作業でつまづく受験生が圧倒的です。
冊子に書かれたものを暗記する意味を私は見出せませんので
この不動産鑑定士の試験を通過する人も、出題する人も、かなり風変わりな人だという印象です。
(だから負け惜しみじゃないって)
そして、万が一、首尾よく合格して実務修習を終えて、不動産鑑定士として登録ができたとします。
仕事はあるのか?年収は?が気になるところですね。
コストパフォーマンスが悪い
と書きましたが、その最大の理由は
弁護士・公認会計士・弁理士・司法書士らと異なり
不動産鑑定士だけが行なってよいとされる、稼げる独占業務がないからです。
「不動産鑑定評価書」という名の書類は確かに不動産鑑定士しか交付してはいけません。
しかし、それがなんだと言うのでしょう(笑)
街の不動産屋だって、お客さんに「うちの物件いくらくらい?」と聞かれたら
色々と調査した上で「査定書」という名前で書類を渡します。
誰が何十万円も不動産鑑定士にお金を払って依頼するのでしょうか?
ここで、考えられる依頼者というのは、不動産ビジネスをしているファンドなどの企業か
固定資産税や相続税の算定の基礎となる不動産の価格を知りたい国、地方自治体か
競売や公売での不動産評価を依頼する裁判所・税務当局くらいです。
まず、あなたが若くして合格し、鑑定士の登録をしたところで、上記の依頼者から鑑定依頼が来るかと言えば
NOです。
企業がいきなり個人鑑定士に依頼することはなく
利害関係者に納得してもらうための鑑定評価として、それなりの規模のある鑑定会社に発注されるのが通常です。
また、公的機関からの仕事の依頼というのも、
開業して何年以上経過しているか?
年間の鑑定評価の件数はどれくらいか?
同業他社からの推薦
といったハードルがあることが多いため、登録してすぐの鑑定士に依頼が来ることはありません。
さらに言うと、公的機関から指名されるベテラン鑑定士には定年がないので
極端な話、死ぬまで公的機関からの仕事のポストにおり
若手に仕事が回ってこないという話がずいぶん前からあります。
絶望的じゃないですか??
資格の本には「年収が1,000万円以上」とか書いてありますが
それは、地方で登録している鑑定士が公的機関からの仕事を受注できたりした場合で
競争の激しい都会では前述の通り、なかなか仕事などありません。
(30代の知人の鑑定士によれば、周囲の鑑定士仲間で鑑定だけをやっている人たちは
報酬だけでは1,000万円がいいところとのこと)
また、コネクションが重要な業界でもあります。
なので、多くの若手は、鑑定事務所へ就職するか
金融機関や不動産会社に就職することが現実的な選択肢となります。
次に
2 すぐに不動産会社で働きながら、不動産関連の資格を取るべき
との提案ですが、すでに述べたように、苦労して鑑定士の登録をしたからといって
すぐに鑑定士としての仕事ができるようになるわけではありません。
であれば、鑑定士の資格はなくとも、不動産業界に身を置いてみて
宅建士などの資格を取りながら、それでも不動産鑑定に憧れがある場合にのみ
チャレンジをしたらいいと思います。
教師でも弁護士でも同じですが、社会経験もない人が
大学を卒業してすぐに「先生」と呼ばれる職業につく弊害というのはあるものです。
鑑定士も同様に実務経験もないのにいきなり「先生」と呼ばれ
自分が不動産業界の上位にいると錯覚することは恥ずべきことかと思います。
ただ、面白いもので
実際の不動産鑑定士のかたで不動産鑑定士の資格を誇るような人はほとんどいません。
(あまりにも知名度の低い、知るひとぞ知る資格で、誇るものでもないと思っている謙虚な人が多い)
もちろん、資格を持っていて損ということもないわけで
私の知り合いは、不動産鑑定の業務はほとんどしていないけれど
売買仲介、仕入、販売の際に不動産鑑定の知識を生かして、そちらで稼いでいます。
そういう意味で、私は、鑑定士になる必要まではないけれど、鑑定理論は知っておくべきと考えます。
最後に、どうしても伝えておかなければいけないことがありまして
「不動産鑑定士には独占業務がない」と極端なことを言いましたが
言い換えると
「職務の独立性がない」のです。
(不動産鑑定業界から怒られるかもしれませんが、鑑定士なら誰もが思っていることのはずです。
だから謙虚な人が多い)
つまり、鑑定評価は依頼者からの依頼があり、依頼者から報酬をもらう以上
「依頼者の意向を無視しづらい」のです。
ある物件を
「節税目的のために低めに評価してほしい」と依頼されることもあれば
「銀行からお金を借りたいから高めに評価してほしい」と依頼されることもあります。
その結果、同じ物件が天と地ほどの価格差でもって評価されることは日常茶飯事です。
「客の望む金額に、それっぽい理由をくっつけるのが鑑定評価」
だと思っている鑑定士と、鑑定士を利用する顧客はたくさんいます。
もちろん、本来は、依頼者がどう頼んでこようが
「私の鑑定は1億円だ!」と言いきるのが士業としての職務でしょうが
サービス業でもあり、継続した依頼を得るためには、そのようなことも避けられません。
また、鑑定士は誰の手も借りずに物件を評価できるわけではなく
意外と、地場の不動産業者に飛び込みで相場をヒアリングしたり、売買事例を教えてもらったりと
ダイナミックに動く現場で働く、不動産業界の人の手を借りることなしに評価業務ができません。
ですから、難関資格を取得して、ふんぞり返って、安定した収入を得たい
などと思っているのでしたら、まったくもって不動産鑑定士はおすすめしません。
それでも目指したい、というのであれば、頑張ってください。
ではまた。