一種(いっしゅ)単価という言葉を知っていますか?
ここは当然、知らないということを前提に話を進めます。
「一種いくら?」という表現は、まず不動産業界の人しか使わない言葉だと思います。
また、不動産屋なら誰でも意味を知っているわけでもありません。
宅建のテキストにもまず出てこない言葉で
不動産業者の中でも、
マンションやホテルなどを「開発(土地を買って建物を建てる)・デベロップ」する会社の
「土地仕入れ」をする人が使用する言葉です。
ここで、「私は土地を仕入れるわけではないから関係ないわ」と閉じないでください。
一種単価とは、あなたが買うかもしれないマンションの仕入れ原価を計算してみるのに役立つ
つまり
買おうとしているマンションが割高なのか、割安なのか判断する補助となります。
2020年現在
新築のタワーマンションや、高級マンションの新築分譲価格は高騰しており
床面積一坪あたり、500万円〜700万円とかしています。
例えば20坪(66平米)程度の、決して家族4人で暮らすには手狭な広さのマンションが
1億円〜1.4億円にもなる計算です。
高すぎますよね。
さすがに床面積一坪あたり1,000万円とかになると、極端に買い手が減るのが想像できます。
マンションや戸建の価格を比較する際に
土地の坪単価や、マンションの床面積の坪単価をもちだして
「あそこはいくらだから高い、安い」と考えることが多いわけですが
はっきり言って、特にマンションの場合、その比較に意味がありません!
ここでようやく役に立つのが「一種単価」の考え方です。
一種単価とは
土地の坪単価を、容積率(500%なら5、200%なら2)で割った、容積率100%当たりの坪単価です。
例
①土地の坪単価1,000万円 ➗ 5(容積率が500%の土地) = 200万円/一種(容積率100%当たり)
②土地の坪単価1,000万円 ➗ 2(容積率が200%の土地) = 500万円/一種(容積率100%当たり)
と計算されます。簡単ですね。
土地の坪単価は同じでも、容積率が異なることで、一種単価も異なることになります。
では次に、一種単価とやらが安い場合と高い場合は何を意味するのでしょうか??
結論は、一種単価が、マンションの床面積の一坪当たりの価格に直結している、ということです。
マンションの坪単価の原価の内訳は
(土地の一種単価(仕入価格)+ 建築費 + 販売費用 + ブランド価値 + 利益)
と考えておいてください。
とすると、さきほど、高級マンションは床面積が一坪あたり500万円〜700万円と書きましたが
一種500万円で土地を仕入れてしまうと、坪500万円のマンションは作れないことを理解してください。
建築費の坪単価というのは、一概になんとも言えません。
鉄筋コンクリート造のマンションの建築費は、以前は80万円/坪くらいと言われていましたが
資材の値上がり、人件費の値上がり、高層マンションだとさらに高くなる等々
130万円/坪とかもっと?な感じです。
今回は、説明のため、建築費の坪単価は200万円で統一します。
例えば、一種単価500万円の土地に、坪単価100万円の建築費をかけると
それだけで坪単価が600万円の原価です。
そこに販売費・利益・ブランド価値を乗っけて、新築マンションは売られます。
つまり、マンションの土地仕入れ会社は
「一種500万円の土地を買うと、販売価格が坪1,000万円くらいになって、誰も買わないだろうな」
と判断します。
逆に
「一種200万円で中目黒の土地を買えたら、販売価格が坪500万円くらいになるから、売れるな」
などと思うわけです。
もっと言うと、仕入れ会社は、立地や自社の建物のグレードを考慮して、売れる価格を想定し
その売れる価格から利益、販売費、建築費を差し引いて、買える土地の一種単価を決めています。
くどいようですが、次は図で説明します。感覚を掴むためです。
下の図だと、土地が坪1,000万円、1階建ですから容積は100%と仮定します(厳密には違いますが)
すると、土地の一種単価は1,000万円+建物坪単価200万円ですから
現時点でのこの建物ひとつの原価は1,200万円/坪 ですね。
次の図は、2階建になったので容積率を200%と仮定します。
すると土地は一種単価が500万円、建物は坪200万円ですから
建物ひとつ当たり、坪700万になりますね。
最後に
4階建(容積率400%)の場合
土地の一種単価が250万円で建物が坪200万円ですから
建物ひとつ当たり、坪450万円となります。
わかりましたでしょうか?
つまり
土地の坪単価は変わらなくても
容積率が異なるだけで、マンションの床面積の原価が変動することを知ってください。
仕組みは単純な四則計算ですから
通常、マンションの価格を低くするためには
(建築費・販売費・見込み利益は動かしづらいので)
・土地の坪単価は安いほうがいい
・容積率は大きいほどいい
という結論が導き出されます。
注意
容積率は地域によって、80%だったり700%だったり決められていますが
実際にその容積率を目一杯使って、上に高く建物を建てられるか否かは
道路の幅の長さによって決まります。
700%の地域にあっても、道路が4mの幅しかない場合は
容積率は240%しか使えない
ということがあり、その場合の一種単価計算は240%(2.4で土地の坪単価を割る)を使います。
さて、ここまでで、一種単価やマンションの原価について理解が深まったと思います。
では、マンションを買う場合の注意点について。
文中でも「私たちはよく土地の坪単価やマンションの床面積の坪単価は気にする」と書きました。
確かに、床面積の坪単価が300万円のマンションよりは、600万円のマンションのほうが
資産価値が高い気がします。本当でしょうか?
例えば
上の図のように坪1,000万の土地で、100階建てという極端なケースを考えます。
通常マンションは、建物の床面積に比例して、土地の持ち分を取得しますから
あなたの土地の持ち分は1/100(1%)つまり10万円です。
建物の建築費は坪200万円でしたから
資産価値(販売者の原価)は坪210万円が最低ライン、となるでしょう。
同じように10階建てを考えると
資産価値(販売者の原価)は坪300万円(土地持ち分が100万円と建築費200万円)ですね。
10階建てのほうが、資産価値が高いのね、と早合点しないでくださいね。
そうではなく、販売価格と資産価値のギャップを計算してみる必要がありますよね、ということです。
マンション業界も会社ですから、利益をたくさん出さなければいけません。
そのための合理的な行動は
安く大量に作って、利益の出る物件を大量に販売することです。
つまり、ここまで見てきたように
なるべく大きな容積率を使い切れるような土地を買って
高層マンションまたは戸数を多くつめこむことで
ひと部屋当たりの原価を低くすることができます。
安く作ったのであれば、安く売るのが商売人の良心でしょ?
と言いたいところですが
マンション業界は、業者同志の横のつながりが強いので
(社長同士が前の職場での先輩・後輩だったり、在庫がない会社が、他社の売れ残りの物件を買ったり)
一社だけが極端に安く物件を供給することをしません。
なぜなら、全体のマンション相場を下げる引き金になりうるからです。
缶ビールの価格みたいですね。
このエリアの新築で、これくらいのグレードなら最低でも坪500万円とでもいうような
暗黙の了解があるので原価が坪210万円でも坪500万円で売るのです。
そして、お客さんは買うのです。
このブログを読んでいるあなたは、よく考えてからマンションを買ってくださいね。
ではまた。